『Neki 額縁と珈琲』☕ 店主 加藤 康弘さん
『自分自身、ピリピリした生活が嫌だったし、子供のためにも良くないと思ったんです。』
加藤さんは、2013年に東京から淡路島に越してきた。
きっかけは、東日本大震災後に放射能を気にする生活から離れるためだったそう。
小学校入学前の息子さんを気遣ってのことでした。
そう話しながらも、加藤さんの瞳はキラキラとして楽しそう。
私がこのお店に来店するのは、今日で6回目。
お店はオープンして、まだ1年も経っていないのに、もうずっと前からそこにあったかのようにあたたかい空気に包まれている。
『東京に住んでいながら、子育てをする場所は東京ではないよね、っていうのが僕ら夫婦の共通した想いだったんです。』
『で、どうして淡路島に?』
『最初はね、ぼくの実家がある栃木県も候補だったんだけど、やっぱり原発に近づくのはちょっとね。で、奥さんの実家がある兵庫県にしようか、ってことになって。』
『いろいろ見てまわりましたよ。兵庫県の北中部の宍粟市とか。ほんとは、ここに決めちゃおうか、というところまで行った物件もあったんですけどね。いろいろあって。』
『淡路島に決めたのはね、たまたま。たまたま、仕事が見つかったから。』
『仕事が見つかってから、住むところを急いで探したんですよ。』
『そのときは3月も後半で、保育所に入れなきゃいけなかったし、それはもう大急ぎで。』
どうやら移住者も、住む場所を決めてから、そこで仕事を探す人ばかりではないらしい。
淡路島に旅行で訪れて、淡路島を気に入ってそのまま住んじゃう、みたいな人が多いなかで、なんだか意表を突かれた感じがした。
私が出会った、関東からの移住者で、もっと多いのが、加藤さんと同じように東日本大震災がきっかけ、という人。
これまで当たり前にあったものが当たり前ではない、ということを感じる経験。
加藤さんは多くを語ることはしなかったが、阪神大震災を経験している私は、なんとなく言いたいことの大部分を理解できるような気がした。
同じ敷地内に住む大家さんが素敵な人であること、息子さんの学校での様子、奥さんのこと。沖縄に住んでいたときのこと、お店のことや、お店周辺の地域のこと。
ついつい話しすぎてしまう、いや、聞きすぎてしまう私に、すべて笑顔で答えてくれる加藤さん。
コーヒーを入れる背中越しに、
人生はなるようになる、
そんな軽やかさと強さを感じる昼下がりでした。
Neki 額縁と珈琲